信託の課税の仕方は信託の種類により異なります。信託の種類は税制上、「受益者等課税信託」、「集団投資信託」、「法人課税信託」、「退職年金等信託」、「特定公益信託」等の5種類に分かれます。このうち受益者等課税信託とは、他の4種類の信託以外の信託をいいます。家族のための信託は通常受益者等課税信託になります。(法人課税信託になる場合もあります)

 

[1]  課税の基本的事項
課税の原則・・・受益者等課税信託においては、法形式よりも経済的実質に着目し
て課税されます。これを「導管論」といいます。

① 課税の時期
信託の課税の時期は、設定時、信託収益発生時、信託受益権の取得時、および給付時または信託終了による信託財産分配時に分かれます。信託設定時または信託受益権の取得時に課税された場合は原則として給付時または信託終了時には課税されません。

② 納税義務者
信託の納税義務者は、受益者または受託者です。受益者に課税する信託は「受益者等課税信託」といいます。これに対して受託者に課税する信託のうち、受益者等が存しない信託など一定のものを「法人課税信託」といいます。

③ 税金の種類
信託に対して課税される税金の種類は、主として所得税、相続・贈与税などの直接税、登録免許税、消費税などの間接税があります。

事例・・投資家(委託者)が信託会社(受託者)に金銭など(信託財産)を信託し、受託者が、これを委託者が決めた信託目的に従って管理・処分します。委託者は信託財産から発生する収益や元本を受け取る権利(受益権)を取得しました(自益信託)が、その後委託者の子に受益権を移転しました。受託者は信託期間中に信託財産から発生した信託収益を受益者に分配し、信託の満期に信託財産を受益者に給付します。この信託は受益者等課税信託です。

 

[2]  信託の設定時

① 受託者自身が受益者になる信託(自益信託)の場合
事例の信託では、当初委託者自身が信託設定時に受益者を取得しています。これを経済的実質でみると、委託者が信託設定後も信託財産を保留しているので、受託者への信託財産の移転にも、委託者の受益権の取得にも課税されません。

② 委託者以外の者が受益者になる信託(他益信託)の場合
事例のように、当初は自益信託であったものの後に委託者の子に受益権が移った場合、あるいは委託者の子が信託設定の当初から受益者となる場合のように、委託者以外の者が、適正な対価を負担せず受益権を取得した場合は、その者は委託者から受益権を贈与により取得したものとみなされ、受益者に対して贈与税などが課税されます。適正な対価を負担して取得した場合は課税されません。また、受益者が現に受益権を有しない場合も課税されません。

◆ 受益者が現に受益権を有しない場合の例

・ 投資家が生前は自分が受益者となり、相続が発生した時にその受益権をその子に相続させる場合等、受益者となることに停止条件または効力発生条件が付いている場合
・ 受益者となるべき子がまだ生まれていない場合
・ どの子を受益者とするか決めていない場合

③ 受益者等が存しない信託の設定の場合
現に受益権を有する者が誰も存在しない場合は、法人課税信託となります。法人課税信託の受託者(受託法人)は、各法人課税信託の信託資産等ごとにそれぞれ別の者とみなして法人税が課税されます。受託者が個人である場合も当該受託者である個人が受託法人になります。

◆ 信託税制の基礎知識

法人課税信託の受託者がその有する資産を信託した場合は、受託法人に出資があったものとみなされます。委託者が個人の場合はみなし譲渡益課税が行われます。

◆ 委託者の親族が受益者になる場合の贈与税課税の特例

受益者等が存在しない信託において、受益者等となるべき者が1名でも委託者の親族であるときは、特例として、受託者が委託者から当該信託に関する権利を贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されます。この場合、法人課税信託として課税された受贈益に対する法人税額は、贈与税額から控除されます。委託者の親族とは、その六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族等をいいます。

④ 特定委託者
例えば事業承継を目的とする持ち株信託等において、後継者指名権を有する者等のように、特定の者が信託の変更権限を有し、かつその信託の信託財産の給付を受けることとされている場合(帰属権利者)、この者を「特定委託者」といい、受益者ではないが、受益者とみなして課税することになっています。この場合、企業オーナーに相続が発生した時に現に受益権を有する者はいませんが、特定委託者が相続税を課税されます。

 * 帰属権利者とは、信託の終了時に受益者へ分配した後になお残存する信託財産を帰属させる者です。帰属権利者は、信託の終了後の精算期間中にのみ権利を行使できます。残存する信託財産がある場合は、残余財産受益者がいない場合ですが、財産が残存するか否かは信託が終了しないとわかりません。

 

[3] 信託収益の発生時

① 受益者等が現に受益権を有する場合
 
信託財産に属する資産および負債は法律的には受託者が有しますが、税務的には受益者等がこれらを有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益および費用は当該受益者等の収益および費用とみなして、所得税が課税されます。前述の事例において信託財産に属する金銭が国債に適用され、その利子が信託収益として発生している場合は、受益者等は国債を保有しているものとみなされ、信託収益が受益者等に分配されたか否かにかかわらず利子所得に対して課税されます。ただし、受益者等が個人の場合は、不動産所得の金額の計算及びその損益の通算の規定の適用については、不動産所得の損失の金額は生じなかったものとみなされます。受益者等が法人の場合は、組合事業に係る損失がある場合の課税の特例に準じて、信託損失の内調整信託金額を超える部分の金額に相当する金額は損金の額に算入されません。

② 受益者等が存するが受益者等が信託に関する権利の一部しか有していない場合

この場合は一部しか有していない受益者等が当該信託に関する権利の全部を有するものとみなして課税することになっています。そのような受益者が複数いる場合は、それぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとされます。

③ 受益者等が現に受益権を有しない場合

受益者となるべき子がまだ生まれていない場合等のように、現に受益権を有する受益者等も、次に述べるみなし受益者等も両方ともいない場合は、受益者等が存しない信託となり、法人課税信託として受託者に法人税が課税されます。

④ みなし受益者

企業オーナーが委託者として持ち株を信託し、子供たち全員を受益者候補として指名するが、今後の彼らの経営者としての成長度合いを確認した後に、特定の子を後継者として選定して、その子を受益者として確定したいという場合のように、特定の者が信託の変更権限を有し、かつその信託の信託財産の給付を受けることとされている場合は、その者自身が受益者ではないが、受益者とみなして(みなし受益者として)課税する事になっています。この場合は法人課税信託とはなりません。みなし受益者の要件は[2]④ の特定委託者の要件と同じです。

⑤ 受益者が複数いる場合

信託の受益者が2名以上ある場合は信託財産に属する資産および負債の全部をそれぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に帰せられる収益および費用の全部がそれぞれの受益者にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとされます。それぞれの受益者に帰属する所得種類は、その保有する資産の種類に対応します。また、所得の金額の計算において、収益と費用は対応します。例えば収益不動産の信託において受益権が複層化されている場合、分配される信託収益が減価償却前のキャッシュフローであれば、不動産の管理費用や減価償却費はその費用になります。なお、減価償却費の帰属には議論のあるところです。

 

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